コスタンツォ・アンテニャーティ「オルガンの技法」より

「ストップの組み合わせについて」(2019年6月4日公開)

 

・「オルガンの技法」は、ルネッサンス期イタリアを代表するオルガン製作一家の一員であり、作曲家でもあったコスタンツォ・アンテニャーティ Costanzo Antegnati (1549-1624)によって、彼らの本拠地であったブレシアで1608年に出版された本です。当時のイタリアのオルガン事情を知る第一級の資料です。

・「序文」「オルガン目録」「演奏について」「調律について」「ストップの組み合わせについて」の5つの章で構成されていますが、ここでは最も興味深い部分である「ストップの組み合わせについて」を公開します。

・他の章もほぼ翻訳済みで、そのうち注釈・解説付きの私家版の小冊子でも作ろうかと考えています。もし「うちで出版してもいいよ」という方がいらっしゃたらご連絡ください(笑)

・原文はかなり読みづらいので、相当な意訳となっていますが、明らかな間違いを見つけたらご指摘いただけると幸いです。引用は著作権法の範囲内でご自由にどうぞ。

 

「レジストラーレ」

つまり、オルガンのレジスター(ストップ)を組み合わせる方法

 すでに述べたように、最初にオルガンの特徴を見極める必要がある。ここではいくつかの(ストップの組み合わせの)例を示そうと思う。たとえば、我らがブレシア大聖堂には下に述べる12のストップがある。

1, Principale (8’)

2, Principale spezzato (8’) つまり2つに分割されたPrincipale。片方は最高音からd1まで。もう片方はc#1から最低音までであり、こちらは高音域とは違ってペダルで奏される。

3, Ottava (4’)

4, Quintadecima (2’)

5, Decimanona (1 1/3’)

6, Vigesimaseconda (1’)

7, Vigesimasesta

8, Vigesimanona

9, Trigesimaterza

10, もうひとつのVigesimaseconda (1’) これはOttava (4’)、Flauto in ottava (4’)およびDecimanona (1 1/3’)とともに演奏するとコルネットの効果が得られる。

11, Flauto in Quintadecima (2’)

12, Flauto in Ottava (4’)

 

第一の方法

 イントナツィオーネ、イントロイトゥスなど、いわばミサの主要な箇所は、基本的には下に述べるストップを用いた「リピエーノ」で奏されるべきである。

1, Principale (8’)

3, Ottava (4’)

4, Quintadecima (2’)

5, Decimanona (1 1/3’)

6, Vigesimaseconda (1’)

7, Vigesimasesta

8, Vigesimanona

9, Trigesimaterza

 

子:なぜ他のストップは使わないでおくのですか?どれもOttavaやQuintadecima、Vegesimasecondaとユニゾンに調律されているのに。

父:調律に問題がないとしても使わないのだ。その方が音色が生き生きと元気よく、しかも優雅に聞こえるからな。

 

子:では他のストップはどんなときに使うのです。

 

父:ソロで演奏したり、さまざまな音色を使い分けるためにだ。これから説明するからの。

 

子:さあ、続けてください。リピエーノはすでに見たり、聞いたことがあります。他にはどのような組み合わせがあるのでしょうか。

 

第二の方法

父:ふたつめの方法は、このようなものだ。

1, Principale (8’)

3, Ottava (4’)

8, Vigesimanona

9, Trigesimaterza

12, Flauto in Ottava (4’)

この5つのストップの組み合わせには「メッゾ・リピエーノ(半リピエーノ)」というべき効果がある。

 

第三の方法

1, Principale (8’)

3, Ottava (4’)

12, Flauto in Ottava (4’)

 

第四の方法

1, Principale (8’)

12, Flauto in Ottava (4’)

 

第五の方法

3, Ottava (4’)

5, Decimanona (1 1/3’)

10, もうひとつのVigesimaseconda (1’)

12, Flauto in Ottava (4’)

この4つのストップの組み合わせは、コルネットの演奏に似た効果をもたらす。

 

第六の方法

3, Ottava (4’)

12, Flauto in Ottava (4’)

この2つのストップの組み合わせは、カンツォーナ・アッラ・フランチェーゼをディミヌツィオーネするのに素晴らしく適している。

 

第七の方法

上の2つにトレモロを加える。これはディミヌツィオーネには向いておらん。

 

子:私は立派な奏者がカンツォーナをトレモロ付きでディミヌツィオーネするのを何度も聞いたことがありますよ。

 

父:そいつらはものが分かっておらんし、まともじゃない…と言ってしまっても構わんわい。そんなストップの組み合わせでは混乱するだけだ。自分らのやっとることにセンスがない証拠だ。

 

第八の方法

1, Principale (8’)のみ。これはまったく繊細なもので、わしはミサのレヴァツィオーネをこれで伴奏しておる。

 

第九の方法

1, 完全なPrincipale (8’)

2, 分割されたPrincipale (8’)

のユニゾンを組み合わせる。

 

第十の方法

12, Flauto in Ottava (4’)のみ。

 

第十一の方法

2, 分割されたPrincipale (8’)

12, Flauto in Ottava (4’)

高音域では2つのストップによる音色だが、低音域ではPrincipaleがなくなり、高音域と同じ音高のフルート管による応答のみが聞かれる。これによってペダルのコントラバスに支えられた「対話」をさせることができる。

 

第十二の方法

1, Principale (8’)

11, Flauto in Quintadecima (2’)

これはディミヌツィオーネが必要となる組み合わせだ。Ottava (4’)を加えても、とても良い効果が得られる。

 

子:まだまだ他のストップの組み合わせや演奏方法があるんじゃないですか?

 

父:その通りだ。しかしもう充分に沢山の組み合わせを示したと思うぞ。それに、あまり演奏して、ストップを変え、また演奏して、ストップを変え…と繰り返すと聴く人を飽きさせてしまうではないか。言い方を変えれば、世界はすでに美しいのだ。演奏を続けて聴く人を不快にさせない以上に美しいことなどないのだよ。しかし、1度か2度、あるいは演奏の最中であってもスタイルを変え、あるときはレガートで重々しく、あるときは速く、あるときはディミヌツィオーネを付け、つねに可能な限り音楽的に演奏するのは良いことだと思うし、歌われる定旋律の旋法に正しく応答するのはオルガニストの第一の義務でもある。

 

子:ここまでは理解できたように思います。しかし、世の中には沢山の違ったオルガンがあり、ストップの並び方もさまざまだと仰っていましたよね。

 

父:その話に戻ろうか。ブレシア大聖堂についてはひと区切りとして、この街の聖ファウスティーノ教会と聖マリア・デッレ・グラツィエ聖堂のオルガンに移るとしよう。これらの楽器は、大聖堂のオルガンと同じ手によって建造され、以下の9つのストップを備えている。

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

3, Quintadecima (2’)

4, Decimanona (1 1/3’)

5, Vigesimaseconda (1’)

6, Vigesimasesta

7, Vigesimanona

8, Flauto in quintadecima (2’)

9, Flauto in ottava (4’)

 

まず、イントナツィオーネは全てリピエーノで、つまり、

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

3, Quintadecima (2’)

4, Decimanona (1 1/3’)

5, Vigesimaseconda (1’)

6, Vigesimasesta

で奏する。ミサの終わりのデオ・グラティアスでも同じように(リピエーノで)トッカータを足鍵盤付きで演奏するように。

 

あるいは、

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

5, Vigesimaseconda (1’)

6, Vigesimasesta

9, Flauto in ottava (4’)

これはほとんど「メッゾ・リピエーノ」である。

 

あるいは、

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

9, Flauto in ottava (4’)

 

あるいは、

1, Principale (8’)

9, Flauto in Ottava (4’)

これは何にでも使える。ただしモテットの伴奏をする際、歌手が少ない場合はPrincipale (8’)のみ、しかもデリケートに弾くように。トレモロを加えてもよいが、アダージョで演奏し、ディミヌツィオーネはしないこと。

 トレモロの話題が出たついでに、トレモロはOttava (4’)とFlauto in ottava (4’)の組み合わせや、Flauto in ottavaを単独で奏する場合にも加えることができる。しかし、すでに述べたようにアダージョで、ディミヌツィオーネなしで、だ。Fiffaro (8’)はPrincipale (8’)と組み合わせるが、これも同じように遅く、レガートで演奏すること。

 逆にFlauto in quintadecima (2’)を使いたい場合はPrincipale (8’)と組み合わせ、ディミヌツィオーネを付けて、カンツォーナ・アッラ・フランチェーゼのような速い曲を弾くこと。カンツォーナにはOttava (4’)とFlauto in ottava (4’)の組み合わせも効果的だが、トレモロを付けてはならない。

 どのオルガンでも単独で使えるストップはPrincipale (8’)またはFlauto in ottava (4’)である。12フィートで設計されているような大型の楽器では、Ottava (4’)を単独で奏すると、並のオルガンのPrincipaleのような効果が得られる。

 この方法によってたったひとつのストップを弾いていても、聴く人を飽きさせないよう途中で変化をつけ、もとに戻ってくるということができるわけだ。

 

子:ところで、(聖ファウスティーノ教会と聖マリア・デッレ・グラツィエ聖堂は)そんなにストップが違っているわけではないですよね。

 

父:まあな。しかし、わしはグラツィエ教会のFlauto in Quintadecima (2’)を移調して低音部に管を追加し、Flauto in Duodecima (2 2/3’)としたのだ。

 

子:そこではどんな順番でレジストラーレすればよいのでしょう。

 

父:(聖ファウスティーノ教会の段落で)述べたものと同じ順番で、まずはリピエーノから始める。

Principale (8’)

Ottava (4’)

Quintadecima (2’)

Decimanona (1 1/3’)

Vigesimaseconda (1’)

Vigesimasesta

Vigesimanona

2種類のFlauto管も(聖ファウスティーノ教会と)同じように。しかしFlauto in Duodecima (2 2/3’)は必ずPrincipale (8’)と組み合わせて使うこと。

 

子:これは分かりやすいし、とても規則的ですね。

 

父:我々が最近仕上げたばかりのベルガモの聖グラータ女子修道院のオルガンの規則的には見えないだろう。彼女たち、さらにはベルガモ大聖堂の楽長兼オルガニスト、ジョヴァンニ博士にも頼まれていることもあって、この規則は書いておかないといかん。

 

子:そうせねばなりませんね。

 

父:さて、こうなっているわけだ。

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

3, Quintadecima (2’)

4, Decimanona (1 1/3’)

5, Vigesimaseconda (1’)

6, Vigesimasesta

7, Flauto in duodecima (2 2/3’)

8, Flauto in ottava (4’)

9, Fiffaro (8’) これは「Voci Umane(Vox Humana、人間の声)」と呼ばれることも多いが、良く言ったものだ。その甘い響きを聞けば、そう呼びたくもなるだろう。このストップはPrincipale (8’)のみと組み合わされる。なぜなら、他のいかなるストップでも調律が狂って聞こえてしまうからだ。アダージョで、できる限り遅く、レガートで奏すること。

 

 リピエーノは上に述べたのと同じく、イントロイトゥスなどミサの始まり、デオ・グラティアスなどミサの終わりで奏する。

 

 「半リピエーノ」といえるようなやり方は、こうだ。

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

5, Vigesimaseconda (1’)

6, Vigesimasesta

8, Flauto in ottava (4’)

 

あるいは、

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

8, Flauto in ottava (4’)

 

あるいは、

1, Principale (8’)

8, Flauto in Ottava (4’)

 

あるいは、

1, Principale (8’)

2, Ottava (4’)

7, Flauto in duodecima (2 2/3’)

これは何にでも使えるが、特にカンツォーナ・アッラ・フランチェーゼやディミヌツィオーネするような曲には最高だ。そのような曲には、これも良いだろう。

2, Ottava (4’)

8, Flauto in Ottava (4’)

 

子:これも理解できるし、簡単です。こういう配列のオルガンも多いですし。しかし、もっと変わったオルガンについて話してください。

 

父:変わった…といえば、我らがブレシアのカルメル会のものだろうな。これはこうだ。

Principale (8’)

Ottava (4’)

Flauto in ottava (4’)

Vigesimanona + Vigesimasesta これは2つのストップが同時に開閉するのだ。

Vigesimaseconda (1’)

Decimanona (1 1/3’)

Quintadecima (2’)

 

子:これはオルガニストが混乱しますね。

 

父:だから土地を良く知っておくべきだと言ったのだ。

ミラノの聖マルコ教会のオルガンは私が現代的に改修したものだが、知ってのように「分割された」ストップをいくつか備えている。

Principale (8’) 低音域

Principale (8’) 高音域

Ottava (4’) 低音域

Ottava (4’) 高音域

Quintadecima (2’)

Decimanona (1 1/3’)

Vigesimaseconda (1’)

Vigesimasesta

Vigesimanona

Flauto in duodecima (2 2/3’)

Flauto in ottava (4’) 低音域

Flauto in ottava (4’) 高音域

Fiffaro (8’)

Principale Grosso (16’) 高音域

Contrabasso Grosso (16’) 低音域・ペダル用

 

子:少なくとも14種類はストップがあるように見えますね。なぜこんな方法を採用したのですか?

 

父:神父の諸師、さらにオルガニストのルッジェーロ・トロフェオ氏、オッターヴィオ・バリオーラ氏の要請があってそうしたのだ。鍵盤の真ん中で分割されているストップは、対話の効果を得るためのものだ。

 

子:この街の聖ジュゼッペ教会のオルガンにも分割されたPrincipale (8’)が備わっていますね。ある日この教会へ試奏と調整に赴いたのです。最初のストップを引いて、Principaleが全て鳴ると思ったのですが、低音域の14か15の鍵盤が音も出ず反応もしないので混乱してしまいました。まあ、すぐに分割に気付いて内部のストップを修理し、すべての音が鳴るようになったわけですが。

 

父:最初の方でわしの忠告が大切なものだと言っておいたのは、そういうことなのだ。プロならば忠告をおろそかにしてはならん。さもないと沢山の間違いをおかすことになるぞよ。さて、この街のマドンナ・ディ・ミラーコリ教会のストップはこう並んでおる。

Principale (8’)

Fiffaro (8’)

Ottava (4’)

Quintadecima (2’)

Decimanona (1 1/3’)

Vigesimaseconda (1’)

Vigesimasesta

Flauto in duodecima (2 2/3’)

Flauto in ottava (4’)

この配列では、本来Ottava (4’)があるべき位置にFiffaro (8’)が配置されているため、誰しも勘違いする可能性がある。伴奏をする際はPrincipale (8’)のみで良いわけだが、色々なストップを組み合わせるときに問題となるだろう。